『沈まぬ太陽』読了

オススメされていた小説を読了。

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)

国民航空(日本航空がモデル)の恩地は、
労働組合の委員長を引き受けたお陰で、
会社から疎まれ10年の長きにわたり
カラチ、テヘラン、ナイロビと僻地の海外勤務を命じられる。
会社の不当と戦う中、御巣鷹山にジャンボ機が墜落・・・という内容です。


カラチ、テヘラン、ナイロビに10年勤務することが
左遷人事の意味合いがあるとしても、
「流刑」「人間性の破壊」とまで呼ぶのは、やり過ぎではないかと。
途中、カラチの駐在員が
「カラチ行きが不当配転だと騒ぐなど、
 われわれを馬鹿にしている」
と言う台詞がありますが、正にその通り!と思ったり(笑)。
ワタシなら喜んで海外勤務しますが。
それとも、もうワタシも会社側の人間になっちゃったんでしょうかねぇ。


主人公である恩地も、
”流刑”中のナイロビで、サーバントの居る広大な屋敷に住み、
休日だけとは言え、銃でライオンや象をハントするのが趣味と、
なかなか感情移入がしにくい人物でした(ワタシには)。
小説中では、”流刑”による
精神崩壊の過程のように書かれていましたが・・・。
彼の主張にも、どうも馴染めないところがあったりして
結局、ワタシは主人公と気が合わなかったんだと思います(笑)。


善人と悪人のキャラをハッキリ分けるやり方には
異論も多いと思います。
まあ、小説だからと言ってしまえばそれまででですが、
登場人物の経歴を実在する人物の経歴を
そのまま使い、誰か推定できるようなやり方は如何かと。
訴えられなかったんですかね・・・。
実際の人物が推定できるとしても、イメージを重ねることなく、
随分偏見を持って書かれていると言うことを
意識しながら読まなくてはなりません。
これが事実だと鵜呑みにするのはいかがかと・・・。
それにしても、全五巻に及ぶ労作。
それを退屈せずに読めるのは、事実を下敷きにしているとは言え
作家に文章力があると言うことではあります。
次回は、この作家の創作作品を読んでみたいと思います。


【リンク】http://www.geocities.jp/showahistory/history7/60c.html


一応、日本航空をベースにしており、その批判が多いのですが
全日空(小説中では新日本空輸)も官僚の天下り
日本航空以上に受けて有利な航空行政路線確保に奔走する
と数行の記載がありました。
著者は、飛行機会社に対して
五十歩百歩との認識を持っているのかもしれません。
どうでもいい事ですが、ワタシは山崎豊子さんの本は
初めて読みましたが、固い会話文を書く方ですねぇ。
こんな固い話し方をする人って、実際いたら敬遠しそう・・・(笑)。


小説は「アフリカ編」「御巣鷹山編」「会長室編」の三部からなり、
誰かも書いていましたが「御巣鷹山編」だけ、
それまでの労務関係・会社内の戦いよりも圧倒的な
悲しみのディティールに彩られた毛並みの違う巻になっています。
家族を、親しい人を、飛行機事故で失った悲しみは、
労務などの話と一緒にせずに、別の一冊にした方が良かったと思います。