読了『盗まれたフェルメール』

盗まれたフェルメール (新潮選書)

盗まれたフェルメール (新潮選書)

美術品窃盗についてフェルメールを中心に書いてある本です。
ちょいと冗長な部分もありますが、そこそこ面白かったです。


よく美術品窃盗があった際に、
「○○億円の絵画、盗難」
のような見出しが新聞に踊りますが、
実際に犯人がこの金額を手にするのは非常に難しいらしい。


ブラックマーケットで売り捌くには
あまりに有名な絵画では買い手がつかず(捜査の網にもひっかかり易い)
かと言って、無名な絵画では
安く売り叩くしかない。
映画のようなアンダーグラウンドのコレクターも現実には居ないし、
美術品の窃盗は難しい犯罪なのだと言う。


まずは、美術館など盗み出したところに
絵を返す代わりに”身代金”を寄越せと言っても、
財政難の美術館などはそもそも支払い能力がなく、
大抵は警察の指導で、交渉に応じないことが多い。


むしろ犯人にとっては、保険会社と交渉した方が有利らしく、
まとまった金額を得る手段となっているらしい。
つまり、
保険会社は、絵画盗難が発生すると、
被害者に絵の価格に見合う保険金を支払わなければならず、
その額は企業の経営を左右しかねない高額であることが多いらしいのです。
なので、
もし絵が返ってきて、保険金を払わなくて済むのなら
ある程度まとまった額を支払うとしても
犯人と秘密裏に交渉する傾向があるらしい。


面白いのは、
「保険会社が、そういう裏取引をするから
 犯人が現金を得る手段ができるのだ。
 保険をかけた絵ほど、盗まれる可能性が高くなる」
と考えて、絵に保険金をかけない美術館などが出てきてること。
盗んでも金にならないとなれば、
現金目当ての犯罪は減るとの思惑。
これは面白い。


これとは別に、犯人側も金額以外の要求をしてくることもあり、
「逮捕されている○○を釈放しろ」
という政治的な要求を行うこともあるらしい。


全人類の共有財産とも呼べる美術品を
”人質”にする手段が有効である限り、
美術品窃盗は続くのかもしれない。
(純粋に美を愛でる犯罪は、ごく少ない気がする)


本の帯によると、行方不明の美術品は

もあるそうです・・・。